観察力を鍛えるワークショップ Vol.8

こんにちは!
教養派アート入門メディア『3L museum』を運営している、白くま館長@3Lmuseum)です。

観察力を鍛えるワークショップへようこそ!

今回のワークショップでは、ある人の横顔を描いた絵画を紹介していきます。
しかし、ただの横顔じゃないような……。じっくりと観察して、力をつけていきましょう!

所要時間は約5分です!

また、このワークショップでは以下のものを必要とします。
ありあわせで大丈夫なので、読み進める前に手元に用意しておいてください!

・文字が書ける紙
・鉛筆・シャープペン・ボールペンなど

目次

作品を見てみよう!

それでは、今回のワークショップで使用する作品の紹介です!

まずは2分間で「アウトプット鑑賞」をしてみましょう!
作品を見て「気づいたこと」や「感じたこと」を自由に書き出してみてください!

所蔵:ルーブル美術館

あなたは気づいた?サクッとチェック

ここでちょっと難易度の高いチェックポイントを紹介します! あなたは気がつきましたか?




どこからそう感じた?

次は自分の感想の中から1つ選んで、「どこからそう思ったのか」を深掘りしてみましょう!

より鮮明に観察することができるようになります。例えばこんな感じです!

顔が……!
→遠目から見たらただの横顔の絵画に見えたのに、近くで見ると野菜と果物で作られた人の横顔だった! 野菜や果物が描かれていることに何か意味があるのかな?

誰を描いているんだろう
→とても斬新で面白い絵画ですが、誰を描いているのでしょう? 昔の絵画ではあると直感ですが感じましたが、昔の絵画は宗教画や肖像画が多かったような……不思議な絵画です

ぱっと頭に浮かぶことで大丈夫です。それでは気楽に1分間でやってみましょう!

この作品はどんな作品?

深掘りお疲れ様でした。少し頭を使って疲れたと思います。

館長

ここで、この不思議な横顔の作品について紹介します

作品の解説

これは『』という作品で、1573年頃にジュゼッペ・アルチンボルドによって描かれた『四季』という連作のうちの1つです。

アルチンボルドは、1530年頃の盛期ルネサンス期に栄えた奇想や奇抜さを好むマニエリスムという流派の画家です。

館長

この絵からして、奇想や奇抜さを好んでいたことがよくわかりますね!

四季について

彼は『四季』という連作をいくつも制作しているため、数々のバージョンが存在します。

今回扱うものはルーブル美術館所蔵の作品ですが、一番はじめに描かれた『四季』はウィーン美術史美術館が所蔵しています。(『秋』のみ消失)

『四季』は、名前通り『春』『夏』『秋』『冬』で構成される4つの絵画です。

これらの絵から、アルチンボルドが四季を楽しんでいたことがわかります。

館長

自然や気候に風情を見出す様子は、なんだか日本人みたいですね!

今回は、その中から『夏』をピックアップして鑑賞していきます。
この横顔は何で構成されているか?」「誰を描いたのか?」といった考察を中心に、鑑賞力をつけていきましょう!

この横顔は何で構成されている?

この一度見たら忘れられないような横顔。
一見するとただの横顔ですが、近くで見た途端に別のものへと変貌を遂げます。

その正体は、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた野菜と果物

鼻がズッキーニになっていたり、頬が桃になっていたりと、ビタミンもりもりの絵画ですね。(?)
ほかにもサヤエンドウやとうもろこし、ニンニク、ナス、さくらんぼなど、探そうとするとキリがありません。

しかも、服は麻袋という徹底ぶり。

このような、個々のパーツを正確かつ発想力を込めて描く技法を『寄せ絵』と言います。

アルチンボルドはこの描き方を得意とし、『四季』シリーズを完成させました。
『春』だと花、『秋』だとぶどうや紅葉といった秋らしいモチーフ、『冬』だと枯れ木で構成された横顔が、それぞれ描かれています。

さらに『四季』シリーズにとどまらず、寄せ絵の横顔作品はたくさん存在します。

『水』という作品では魚で構成されていたり、『大地』という作品ではたくさんの動物たち、『司書』という作品に関しては大量の本で構成されていたりします。

このアルチンボルドの独特の作品たちは、当時の人々をどんどん虜にしていったのです。

館長

現代でも斬新に思うこのテイスト。当時の人と同じように楽しめるってなんだかいいですね!

ちなみに、この寄せ絵にプラスアルファを加えたような作品もいくつか存在します。

たとえば『庭師』という作品では、一見すると寄せ絵で作られた庭師が、絵を逆さまにすると野菜がたくさん入ったボウルにしか見えないような絵です。

館長

このように、彼の作品で遊び心のあるものはたくさんあるので、興味のある人はぜひ調べてみてください!

この作品に描かれている人は誰?

この作品に描かれている人ですが、実は特定のモデルが存在していません。

笑顔の熟年女性が描かれているという認識でOKです。

ちなみに、ほかの『四季』の作品も同様で、『春』では若い女性、『秋』では男性、『冬』では老人描かれています。

では、なぜアルチンボルドは誰でもない架空の人間の作品を作成したのでしょうか?

『四季』が描かれた経緯

それは、珍しいものを収集することが好きな皇帝からの依頼があったからです。

アルチンボルドが活躍した時代は、先ほども述べたようにマニエリスムと呼ばれる奇想や奇抜さを好むような傾向の時代です。

そんな奇抜な絵画を求めたのは、インテリ層の人間でした。
宮廷というパトロンを得たことで、市民向けのわかりやすい絵画ではなく、学者や頭の良い宮廷人向けの絵画になったのです。

加えて、この『四季』を依頼した皇帝マクシミリアン2世をはじめとした当時の王侯貴族の間では、珍しいものを収集することで自分の支配領域をアピールするブームがありました。

自身のコレクションを「驚異の部屋」と呼ばれるコレクションルームに保管し、威厳のためにコレクションを公開しました。

アルチンボルドはこれらの珍しいものをスケッチする仕事もこなしていたようです。

そのため、『夏』という作品に描かれる野菜の一部には、トウモロコシナスといった当時珍しかったものが含まれているのです。

これらのことから、アルチンボルドの遊び心と奇抜さにあふれた作品は、皇帝に愛されたのです。

しかも、ただの面白い絵画ではなく描かれたものにも意味のある絵画。なんともアカデミックです。

この作品をあなたはどう思う?

では最後に、この作品を観てあなたは今どう思いますか?
作品をよく観察し、背景を知ったあなただからこそ出てくる感想がきっとあるはずです。

自由に書き出してみましょう!

ここでほかの人の感想も紹介させていただきますね。

「ただ単に野菜で構成されたおもしろ絵画かと思いきや、ちゃんと意味があったことに驚きです! 作品を見る際は、今後描かれている内容の意味も考えていきたいと思います!」

「アルチンボルドのものの特徴を捉えるレベルの高さに脱帽です。自分も観察力を身につけて、特徴を的確に捉える力を養いたいと思いました。」

まとめ

今回は面白おかしい奇抜さを持つ作品を紹介させていただきました。

この作品の見どころをまとめると、下記のとおりです。

・個々のパーツを正確に・発想力を込めて描く『寄せ絵』の技法
・ただ野菜を描いていただけでなく、ちゃんと意味があること
・季節などの事象に対する特徴の捉え方

この作品から、物事に対する意味を考える深掘りする力や観察力をつけていくことができたのではないでしょうか?

このような奇抜な作品を数多く鑑賞してみることで、観る力は格段に伸びていくと思います!
以上で、今回のワークショップは終了です!

館長

およそ500年前に描かれた作品なのに、今でも通用するおもしろさと奇抜さがあるってなんだかロマンを感じませんか?

ほかの記事でもワークショップを作成しているので、ぜひチャレンジしてみてください!

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この記事を書いた人

1996年生まれ。大学卒業後、美術館でナビゲーターとして教育普及に従事。教養としての芸術を広め、芸術に対する価値観やイメージをアップデートしたいという想いから、2021年3月に「3L museum」を開設。牛乳キャップやチロルチョコの包み紙など、芸術的価値があると感じるモノの蒐集が趣味。




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